ReBit さん主催のイベント「RAINBOW CROSSING TOKYO」に行ってきました。

このイベントは、「自分らしくはたらく」ことに興味のある就活生、学生、求職者、社会人を対象としたイベントで、LGBTやダイバーシティに取り組んでいる企業の現状や、実際にこれらの活動を始めている企業・これから始めようとしている企業の担当者との交流ができるイベントとなっています。

今回、都合で午前中の前半コンテンツ(企業担当者向けのコンテンツ)のみの参加だったのですが、70社を超える企業の担当者が集まり、ReBitのファシリテーターの方やパネリストの方と膝を寄せ合って真剣に自社事例や他社事例の交換を行っていました。

様々な取り組みや意見の交換がありましたが、特に興味深かったものについていくつかご紹介したいと思います。

設備面、待遇面の問題

以前別の会社を経営していた時に、女性メンバーから「トイレの流れる音が聞こえないオフィスが良い」と言われてびっくりしたことがあります。女性用トイレに「音姫」など、水が流れる音がする機器が設置されているのは知っていましたが、そもそも流れる音そのものが気になっているとは考えたことがなかったためです。

今回、LGBT当事者の方にお話を聞く中で「男性用のスーツで出勤しているため男性用のトイレを使用しているが、取引先の方がいる際には別の階にあるトイレを利用している(FtMの方)」「女性ではあるが、髪が短く男性のような格好をしているため、公衆浴場でびっくりされる(FtXの方)」「だれでもトイレ・多機能トイレが救い(FtXの方)」など、様々な声を聴かせていただくことができました。

「多機能トイレ」の設置は、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法) 2.7 便所・洗面所 (PDF)」にあるように、内部が縦横2m以上の空間が必要なため、古い建築物などでは改装自体が難しい場面もあるかと思います。ですが、最近ですと居酒屋などを中心に「男女兼用トイレ」「だれでもトイレ」が増えてきており、少ないスペースを有効活用するだけでなく、セクシャルマイノリティの方への配慮としてもすぐに取り組んで頂けるのではないかと思います。

パートナーへの連絡などに関する問題

日本の企業で入社時に書くことのある書類として「身元証明書」や「緊急連絡先」がありますが、これもまた、LGBTの方を悩ませる原因になっているようです。大手企業を中心に、最近ではあまり見かけなくなってきていますが「身元証明書」や「緊急連絡先」は三等親以内、などの制約を課している企業さんもまだまだ多いのが現状だと個人的には感じています。

この問題については、LGBTの方のみの問題ではなく、少子高齢化や、大規模災害が進む中で、災害遺児の方や、親族を失った方についても同様の問題が発生しているものと考えられます。

進学や就職を機に親元から離れて生活している方も多く、特に緊急連絡先についてはLGBTや災害遺児の方に限らず、「遠くの親族」よりも「近くの友人・パートナー・成年後見人」などに依頼しておいた方が、本人にとって安心して就業できるケースも少なくないかと思います。

個人情報保護の観点から医療機関などとの連携なども必要になってきますが、一点注意事項として「成年後見人の医療行為に関する同意権は現状存在していない」という点だけご注意ください。つまり、医療契約を本人に代わって結ぶことはできる(どこの病院で治療を受けるなど)が、そこで行われる治療行為その他の医的侵襲行為(手術や注射、投薬、検査など)についての同意権はありません。ただし、2016年2月22日の日経新聞で取り上げられている「成年後見、医療行為の同意可能に 自公が今国会に法案」のように、成年後見人が医療行為の同意権を持てるようにする動きもありますので、この部分については今後変わっていく可能性もあります。(詳しくは内閣府の成年後見制度利用促進についてのページを確認ください)

現状では医療行為に関する同意権がないため、LGBTや災害遺児の方などでパートナーへ成年後見制度を利用する際には、延命措置をとるとらないなど、意識がない状態で緊急措置や延命措置を取る必要が出た場合にどのように対応して欲しいかをまとめた「終末医療宣言」などを書いておくと良いでしょう。

昇進・昇格などに対する問題および風土の問題

今回のイベントでは、昇進・昇格に関する問題も出てきました。「オネーチャンのいる店にいかないか? と聞かれた時に、昇進や昇格に響くと思って断ることができなかった(Gの方)」という話です。

この問題も、LGBTの方に限った話ではなく、個人の信念やパートナー(恋人・結婚相手など)と風俗遊びをしない約束をされている方も最近では多くいると感じています。パワハラやセクハラについては最近大きく取り上げられる機会が増えていますが、上記の話はセクハラであると同時にモラルハラスメントの問題も抱えているものと考えられます。

モラルハラスメントの根底にあるのは「価値観の基準を押しつけること」です。上記のケースにおいても、当事者の方が「女遊びの一つや二つくらいできないと、昇進できないぞ」などと他の先輩などから言われていた可能性は考えられます。これはそのまま企業の風土形成となり、社内の暗黙知になります。企業も集団である以上、一定の暗黙知や風土形成は行われますが、ダイバーシティの観点からもう一度暗黙知や形成されている風土を見直して、スリム化を行うと共に、様々な価値観を持った人たちが同じ理念に向かって全力で取り組める環境があることで、個々人のパフォーマンスが最大化され、より効率の良い経営を行う事が可能になると共に、CSRの観点から見ても健全な企業体が組織されるでしょう。

男性や女性ではなく、1つのパーソナリティとして扱って貰えること

「取引先の方に、『この子は男性ですか? 女性ですか?』と聞かれた時に、先輩が『一人の営業として扱ってください』と言ってくれてとても嬉しかった(FtXの方)」という話を伺いました。男性や女性という SEX や Sexuality の話ではなく、一つの役割(ロール)を担った個人として扱ってください、というメッセージを届けることができた先輩と一緒に居た当事者の方は、本当に嬉しかったのではないかと思います。

パーソナリティという言葉から、ラジオの司会者をイメージされる方も多いと思いますが、心理学においてパーソナリティは「人格(個)」を指す用語として使われています。このパーソナリティというものは実に複雑で多様性を持っている言葉でもあり、心理学では「人格心理学」ではなく「パーソナリティ心理学」とわざわざカタカナで書くほど、日本語の「人格」という言葉が持っているイメージとは大きく異なる部分があります。アメリカやヨーロッパなどでは求人や転職の際に「役職(ロール)」ベースの求人を行う傾向が多いのですが、これは同時に「性別や年齢に関係なく、特定の業務を遂行できるスキルを持っている人」を求人しているとも言えます。

日本では新卒を一斉に採用し、その中から適性を見極めて配属、という流れが主流になっていますが、役職(ロール)ベースで採用活動について考えた時に、実は不要な条件が採用条件に含まれていた、という事もあるのではないかと思います。最近では「ヤフー、新卒一括採用を廃止…通年採用に移行」などのように、新卒一斉採用を取りやめる会社も徐々に増えつつあります。企業からしても、必要な人材ベースで採用戦略を考えていくことができるでしょうし、一方で学生視点で見ても、大学を卒業してから数ヶ月海外留学を行い、その後海外で学んだ知識を活かした就職活動ができるようになるなどのメリットがあると思います。この時に必要になってくるのは、企業が求める「役職(ロール)」に対して、就職者の「経験(スキル)」がマッチするかが大きな選考基準になってくるのではないかと思います。

話をLGBTに戻しますが、男性や女性という SEX や Sexuality の話ではなく、一つの役割(ロール)を担った個人として企業の一員として働ける場には、前項の「昇進・昇格などに対する問題および風土の問題」も少ないのではないかと思います。

まずは知る。制度はあと

最後に、実際にダイバーシティの考え方や、LGBTについて社内で取り組んでいる会社のパネルディスカッションで共通して出た「まずは知る。制度はあと」について話をしようと思います。

企業で何か新しいことに取り組む時、多くの企業では「誰がやるのか」「どのような制度が必要なのか」と、逆算思考で考えることが多いようです。これは、利益を求める集団である以上、まずはわかりやすい数値の目標を立て、そこに対するコミットメントをKPIなどで追う、という管理手法がベースになっているためだと考えられます。

ですが、ダイバーシティの促進は多様性を内包し、互いに理解していく行為です。言い換えると、これまでの視点ややり方では成立しないものを取り込み、共存していくプロセスそのものです。そのため「まずは知る。制度はあと」という考え方が必要になってきます。

多くの企業では、女性の社会推進問題や企業のグローバリゼーションなど、様々な問題を抱え、解決方法を模索していることと思います。最近ではHCD(人間中心設計)やUX(ユーザーエクスペリエンス)といった単語がよく取り上げられますが、これらの単語の根底にあるのはユニバーサルデザインであり、ユニバーサルデザインを実現するために必要なプロセスには、まず利用者を知り、利用者が躓いた部分を何度も何度も改善していくことにあります。この考え方を一言で言うと「まずは知る。制度はあと」という言葉になったのではないかと思います。

今回、いろいろな企業の方とダイバーシティの考え方についてお話させて頂く機会が得られ、非常に嬉しく思っています。次の機会では実際に就活中の当事者の方からお話を聞くことができればと考えています!!